ジム開業の手引き|具体的な流れとポイントを解説

近年、運動不足解消やストレス発散の手段として、ジムの需要が高まっています。コロナ禍には、感染症罹患への懸念から客足が遠のいたものの、その後のリモートワークの普及により時間に余裕ができた人や、自宅での自主的なトレーニングに限界を感じている人など、そのニーズは多岐にわたります。

本記事では、個人経営を前提にジムの開業手順を7つに分けて解説します。開業までの流れを把握することで、スムーズなジム経営につなげられるため、ジムを開業しようか迷われている方はぜひ参考にしてください。

フィットネス業界の動向

経済産業省が2024年に公表した「特定サービス産業動態統計調査」によると、ジムが含まれるフィットネスクラブ業界の売上高は、コロナ前の2019年には約3,348億円でした。その後、コロナ禍の2020年には約2,235億円と1億円以上落ち込みましたが、2024年には約2,910億円と回復傾向にあります。利用者数も、2019年は約2億5,451万人、コロナ禍である2020年の1億7,160万人を経て、2024年時点では2億2,661万人となっています。

このことから、ジムを含むフィットネス業界の需要は今後も見込まれ、さらなる拡大が考えられます。

参考サイト:経済産業省「 特定サービス産業動態統計調査 長期データ

ジム開業の手順

① コンセプトの立案

ジムの開業準備において、コンセプト作りは非常に重要です。パーソナルジムにするのか、女性専用ジムにするのかなど、ジムのコンセプトは、開業準備を進める際の指針となります。コンセプトを設定する際には、セグメンテーションやターゲティング、ポジショニングを明らかにすることが不可欠です。

(1)セグメンテーション

セグメンテーションは、顧客をさまざまな切り口で分類し、特定の属性ごとに細分化するプロセスです。以下の要素でセグメンテーションを組み分けることで、ジム業界の構造を把握することができます。

・地理的変数(例:世界の地域、日本の地域・地方、気候、地形、人口密度など)

・人口動態変数(例:利用者の年齢・年代・性別・家族構成・職業・所得など)

・心理的変数(例:利用者の性格・価値観・ライフスタイル・趣味・消費動機など)

・行動変数(例:利用者のジムに通う頻度・利用シーン・価格感度など)

(2)ターゲティング

ターゲティングでは、セグメンテーションにより細分化された市場を評価して、どのセグメントの顧客をターゲットとするのかを決定します。落ち着いた空間や高品質の設備を求める高所得者層や、低価格帯で手軽に通えるのを重視する若年層などが挙げられます。

対象となるターゲット層の年齢、性別、施術内容によって、設定すべきサービス料金が変化します。そのうえで、ターゲット層は具体的にどのくらいの頻度で、いくらまでなら来店してくれるかを考察します。

(3)ポジショニング

ポジショニングではターゲティングで決定したセグメントの中で、自身のジムがどのようなポジションを取るかを決めます。ポジショニングをする際に有効的なのが、ポジショニングマップの作成です。

ポジショニングマップは、市場内のそれぞれのジムが利用者にどのように認識されているかを、購買に影響を与える2つの要素を軸として表した二次元の図です。ジムにおけるポジショニングマップの軸は、サービスの品質や値段、ターゲット顧客層、アクセシビリティ、設備の充実度など、さまざまな要素が存在します。

注意したいポイントは、軸が利用者にとってジムを選ぶ基準になっているかという点です。他店舗と差別化しようとするあまり、利用者にとって関心のない要素を軸に採用してしまうと、市場からのニーズが十分でないことがあります。

(4)コンセプトの決定

以上のステップを踏まえ、自身のジムの立ち位置を言語化して表します。そのうえで、誰にどのようなサービスを提供するのかを明らかにすることで、開業準備のみならず、今後の経営における基盤構築にもつなげられます。

② 資格の取得

ジムを開業する際に取得しておかねばならない必須の資格はなく、開業届を税務署に提出すれば、そのまま開業できます。ただし、自身が提供したいサービスに適した資格を取得することで知識を体系化でき、利用者に提供するサービスの質やジムの信頼性向上につなげることが可能です。以下では、ジムの経営に役立つ資格をいくつか紹介します。

資格名概要受験料(※受験するコースや方法などによって異なる場合がある)資格の取得方法
NSCA-CPT(National Strength and Conditioning Association)老若男女誰にでも通用する幅広い知識を身に付けられる資格46,090円(税込)オンライン講座、スクール講座など
NESTA-PFT(National Exercise & Sports Trainers Association)マーケティングや集客方法などのビジネススキルを学べるパーソナルトレーナーの資格79,750円(税込)NESTAジャパン公式ゼミコース・WEBコース、オンライン講座など
JATI(アスレティックトレーナー)ケガをしたアスリートのリハビリを行うのがメインだが、パーソナルトレーナーとしての活動にも役立つ知識を学べる。資格取得には、スポーツ競技団体から推薦を受ける必要がある一般科目55,000円(税込)
専門科目60,500円(税込)
専門学校や大学での養成講習会など

受験料のほかに、入会料やテキスト代、講習費用などが別途かかる場合があります。

NSCA-CPT(National Strength and Conditioning Associationの資格)

画像引用元:NSCA公式ホームページ

NSCAとは、アメリカ合衆国に拠点を置くNational Strength and Conditioning Association(全米ストレングス&コンディショニング協会)という教育団体です。1978年より、ストレングス&コンディショニングの世界的権威として、研究に裏付けられた知識の普及と、その健康やスポーツ現場への応用を支援しています。

参考サイト:NSCAジャパン「NSCAについて」

NESTA-PFT(National Exercise & Sports Trainers Associationの資格)

NESTAとは、アメリカ合衆国に拠点を置くNational Exercise and Sports Trainers Association(全米エクササイズ&トレーナー協会)というフィットネス団体であり、1992年よりアメリカでトレーナーとフィットネスに関わる人材育成を行っています。資格取得のみならず、フィットネスビジネスを始める人たちや、ビジネス展開を加速させたい人たちへの、サポートも含めた総合的なサービスを提供しています。

参考サイト:NESTAジャパン「全米エクササイズ&トレーナー協会NESTA」

JATI-ATI(日本トレーニング指導者協会の資格)

JATI-ATIは、日本トレーニング指導者協会によって公認されたアスレティックトレーナーが取得できる資格です。日本の環境や実状に合ったトレーニングの構築や指導者資格の確立、教育・研修、指導者間の交流や情報交換の促進などを目的として2006年に設立されました。

本資格取得のためには、JATI公認の大学や専門学校で学び認定試験を受験する方法のほか、JATI会員になり養成講習会を受講し認定試験を受験する必要があるなど、かなりの労力がかかります。しかし、取得すればプロスポーツ選手のパーソナルトレーナーになることや、スポーツチームへの就職などが可能になります。

参考サイト:JATI日本トレーニング指導協会「資格について」

③ 物件探し

物件を選ぶ際には、顧客の利便性や価格、敷地面積など多方面から考慮する必要があります。特にジムの場合、トレーニングマシーンを複数設置するため、ある程度の広さがある物件が求められます。ここでは、物件の探し方と選ぶ際のポイントについて解説します。

物件の探し方

ジムに合った物件を探す場合、インターネットの物件サイトで希望物件を絞り込み、Webサイト経由で不動産仲介業者に行く方法が一般的です。物件を探す際は、施工実績が高く、信頼性のある施工会社に発注を依頼することが重要です。ジムの施工に詳しい専門家と物件をチェックすることで、最適な物件を見つけやすくなります。

物件選びのポイント

ジム開業に適した物件を選ぶ際に、注意すべきポイントは以下の通りです。

面積/規模

ジムは、使用する機器や設備の大きさ、受け入れる人数によって必要な面積が大きく変わります。自身のジムのコンセプトに基づき、導入するトレーニングマシーンをリストアップしておき、必要な面積を割り出しておく必要があります。

電気容量

ジムで使われるトレーニングマシーンで電気を消費するものは少ないですが、そのほかの設備利用時にかかる電力なども考慮し、適切な物件を選択します。

入店動線

テナントビルでジムを開業する場合、入店動線の確認も大切です。時間帯によって、入り口や入店方法が変わるビルも存在するため、事前にテナントビルのオーナーに確認が必要となります。

耐荷重

ジム開業にかかる物件探しでは、トレーニングマシーンを設置できる耐荷重も必ず確認するべきポイントです。建築基準法の第85条第3項では、事務所や店舗の耐荷重の下限を2900N/㎡、約296㎏と定めています。

④ 開業資金と見積金額の計算

ジムの開業に必要な費用は、ジムの規模や立地、コンセプトによって大きく異なります。小規模なジムであれば300~500万円、大規模なものだと2,000~3,000万円ほどが目安です。

開業資金の内訳

施工費

物件の築年数により施工費が変化し、一般的に新築物件の方が施工の実装が少ないため、費用が安くなります。

主な施工内容として下記が考えられます。

  • 内装
  • 建築/外装
  • その他設備(電気、ガスなど)
ランニングコスト

ランニングコストで差が発生するのは人件費です。必要なスタッフ数や求めるスタッフの経験値などを、事前に考慮する必要があります。コストとして、以下のような項目が考えられます。

  • 水道光熱費
  • 人件費
  • 家具(デスク、椅子、ロッカー、棚など)
  • 消耗品など備品購入費(タオル、シャンプー、ペーパータオル、トイレットペーパーなど)
  • 更衣室・シャワールームの備品(ロッカー、ドライヤー、体重計、清掃用具など)

⑤ 事業計画の策定と資金調達

事業計画の策定

開業資金やランニングコスト、収益見込みやジムの規模などを事業計画書にまとめます。また、物件家賃や人件費などランニングコストは、慎重に仮説検証して、正確な数値を算出することが重要です。

事業計画書は、融資先に提出する書類でもあります。事業資金の借り入れを検討している場合は、自身のジムの魅力を担当者にしっかりとアピールできるような計画書を作成することが求められます。

資金調達

開業資金の調達方法は主として、クラウドファンディング、融資、補助金・助成金が挙げられます。多角的な方法を踏まえることで、適した資金調達を実施することが重要です。

クラウドファンディング

クラウドファンディングは、プロジェクト・事業を立ち上げた人に対し、多くの支援者から資金を募る仕組みを指します。銀行ローンや投資家からの資金調達と異なり、借金を背負うリスクがなく、事業に失敗しても負債が残らないことが特徴です。

一方で、世間から魅力的な企画として認知されないと、目標金額の達成が難しくなる可能性があります。

政策金融機関や民間金融機関からの融資

公的機関からの融資として、日本政策金融公庫や銀行への申請が一般的です。また、都市銀行よりも地方銀行の方が、小口取引がメインで地域発展を目標に掲げていることから、融資を受けやすい傾向にあります。

融資のプロセスでは、申請者の借入希望金額や返済プランなどが厳しく見られる傾向にあります。企業や事業の具体的な内容も精査されるため、入念な事業計画策定が重要です。

政策金融機関や各銀行が設けている利用資格に満たない場合は、銀行融資を申し込むことができないため、各支店へ要件の確認が必要となります。

補助金・助成金

補助金と助成金は、ともに国や地方自治体から事業者に支給される支援金です。助成金は要件を満たせば受給可能なのに対して、補助金では要件を満たしていても、審査で採択される必要があります。

ジムの開業に使える補助金としては、「中小企業新事業進出補助金」が挙げられます。こちらは2025年度から新設され、「中小企業等が行う、既存事業と異なる事業への前向きな挑戦であって、新市場・高付加価値事業への進出を後押しすることで、中小企業等が企業規模の拡大・付加価値向上を通じた生産性向上を図り、賃上げにつなげていくことを目的」としています。

⑥ 営業許可の取得

これまでの手順を踏まえたら、次は営業許可の取得です。

(1)事前相談

ジムの営業には、特定の営業許可は必須ではないことが多いですが、施設の形態や提供するサービスによって、複数の行政機関への届出が必要になります。

税務署や都道府県税事務所への個人事業の開業届出書などは、事業を開始する場合必ず提出する必要があり、ジム内にシャワー室を設置する場合は保健所に公衆浴場法営業許可を申請する必要があります。ほかにも、利用者の安全確保のため、建物の規模や形態に応じて消防計画作成届出書などを消防署に提出する必要もあります。

そのほかにも、提供するサービスや入居する建物などによって、必要になる申請が異なるため、事業を開始する前に必ず確認し、提出漏れがないようにしましょう。

(2)施設施工・許可申請

許可申請の際に、保健所に提出しなければならない書類は、地域によって異なります。例えば東京都港区の場合、以下の書類を正副2部ずつ用意して提出する必要があります。

  1. 営業許可申請書
  2. (法人申請の場合)定款又は寄付行為の写し及び登記事項証明書
  3. 構造設備の概要
  4. 周辺の見取図(半径300メートル、縮尺2000分の1以上のもの)
  5. 建物配置図、平面図、正面図、側面図及び断面図(縮尺100分の1以上のもの)
  6. 換気設備の配置及び系統を明らかにした図面並びにその構造の概要
  7. 給排水設備の配置及び系統を明らかにした図面並びにその構造の概要(ろ過器を含む)

(3)施設の検査

ジムが完成したら、保健所と消防署により設備基準に適合しているかどうかなどの立入検査を受けます。ただし、ジムの形態によっては保健所の検査は必要ない場合があります。 検査で問題点が見つかると、開店日が予定より遅れてしまう可能性もあるため、設備基準に沿った施設を準備しておく必要があります。

(4)営業許可の取得

施設検査により基準に適合していることが認められ、提出した書類の不備等が無ければ、約2週間ほどで営業許可書が発行されます。営業許可を得たのち、経営者の名前や法人名の変更などをおこなう場合、変更後10日以内に届出の提出が必要です。

⑦ 開業日の決定

開業前の最終手順として、ジムの店舗オープンに向けた準備を進めていきます。内装施工の日程から逆算して、開業日を最終決定します。また、スタッフを雇う際は、早めに採用と育成を行う必要があります。

また、スムーズなジムの営業に向けて、ホームページ制作やSNS活用したマーケティング活動、予約システムなどのシステムの導入を、開業日までに済ませておくことが大切です。特に予約システムの導入は、顧客管理における業務効率化や費用削減、マーケティングの強化にもつなげられます。

ジムの施設予約には、予約システムRESERVA

画像引用元:RESERVA fc

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RESERVAは多彩なプランからジム運営のニーズに沿った選択ができ、使用予定の機能数によって細かい料金設定がされている点も特徴です。

まとめ

本記事では、個人経営を前提としたジムの、7つの開業手順と運営に役立つ予約システムを紹介しました。開業までの流れと各ポイント把握することで、スムーズなジム運営につなげられます。

また、ジムを開業するにあたり高額の資金が必要となります。事前にクラウドファンディングや融資など、多角的に資金調達方法を模索することが重要です。 本記事が、ジム開業を検討されている方のスムーズな運営に役立てば幸いです。

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